2018年12月28日金曜日

イメージを描く

 本日のモデル嬢。フリルのついたブラウス、上品な帽子と赤のロングスカート。そしてかしこまったポーズ・・・おしゃれな洋館に住むお嬢様を描いてと言わんばかりの構図です。でもここまで条件がそろうと、面白みに欠け、さからいたくなるのが人情と言うもの。そこで今回はモデルさんにとらわれず、勝手に「清楚な若い女性」を描くことにしま
した。
 まずは鉛筆で下絵を描きます。「若い女性」らしさのポイントはやはり表情。うりざね顔よりも丸顔のほうが優しい感じがするし、切れ長の眼よりもつぶらな瞳のほうが、未来への憧れのようなものを感じさせます。唇は微笑んでいるより軽く閉じているほうが何か言いたげで頼りなさを感じていいな・・・などとイメージのままに描き込みます。

 さて問題は着彩です。「清楚な」イメージを大切にするにはブラウスの白はできるだけまばゆく、清潔に描きたいものです。ですが水彩画では紙の白地をいかにきれいに塗り残すかを考えるしか方法はありません。テクニック的には、ブラウス以外の部分は、どんなに明るい部分でも必ず色を重ね、その比較で白を際立たせることにします。そしてブラウス部分はなるべく色を重ねずグレーの鉛筆のグラデーションを生かします。
 背景は、もちろんわざとらしい洋館のインテリアなど描きません。できるだけシンプルに、ただしブラウスの白の美しさを邪魔しないように、様々な色を混ぜてグレー調に仕上げてあります。
 かくしてこの日のモデルさんにはまったく似ていない絵が出来上がりました。でもかの小磯良平さんも、実はまったくモデルさんの顔を見なかったとか・・・。たまにはこんな絵もあっていいのだと言い聞かせることにします。

2018年12月20日木曜日

暑い日


 ノースリーブのモデルさん。麦藁帽子にサングラス。ここまで小道具がそろうと、タイトルは・・・「暑い日」でしょうか?
 まずはいつものように鉛筆でスケッチします。制作のポイントはやはり肩の表現。服のしわがない分、女性らしい自然な丸みを出すのが難しい。気に入った線になるまで手を入れましょう。
 そして着彩。TVのコマーシャルなら「小麦色の肌」をうたうところでしょうが、今回は見たままの、むしろ色白の肌に仕上げます。こちらも十分に魅力的です。
 背景は「海」がふさわしいのでしょうが、あまりに構成しすぎるとポスターのようになってしまいます。今回は空と海と草原がなんとなくイメージできるようなバックを描いてみました。
 冷房の効いたアトリエの「暑い日」・・・いかがですか。

2018年11月29日木曜日

白のサマーセーター

 ドイツのスケッチ旅行はちょっとお休み。期待していた方ごめんなさい。今日は久しぶりに人物画をご覧ください。
 女性のモデルさんの場合、普通は膝を揃えた、お行儀のよいありきたりのポーズになりがちです。でも今回はちょっと大胆に、足を開いたポーズを取ってくれました。おかげで画面収まりの良い、面白い構図になりました。
「優しい」絵を志す画家としては、背景もなるべく明るくするのが直截的でわかりやすいのですが、今日のモデルさんの魅力は色白肌と真っ白なサマーセーター。バックを明るくするとせっかくの「白」のイメージが沈んでしまいます。なので今日のバックはかなり暗めに・・・具体的には背景を描く鉛筆の種類を変えます。いつもはHからFの硬めの鉛筆を使うのですが今回はHBを主体として描くことに。そしてその上に重ねる絵の具は、落ち着きのある褐色系ではなく「白」の清潔感を際立たせるプルシャンブルーを使いました。ハイライトとバックの濃さのバランスに合わせて、人物の影の部分もちょっと濃いめに色を入れ・・・完成!
さて、狙い通りさわやかな美人画になったでしょうか。

2018年11月22日木曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編その15 ホーエンシュヴァンガウ城

 ドイツ旅行の最後はやはり古城のスケッチで締めくくりたい・・・そんな思いで訪れたのがフッセンの町。ここにはバイエルン王国の親子2代の王が築いた城が残っています。父親が築いたのがこの「ホーエンシュバンガウ城」、息子が築いたのがシンデレラ城のモデルになったと言われる有名な「ノイシュバンシュタイン城」です。いずれの城も観光客の人気の高い城で中に入るには指定時間まで相当時間待たなくてはなりません。旅程を考えると二つの城とも内部を見るのは無理・・・と言う訳でホーエンシュバンガウ城のスケッチはふもとの道からの雄姿のみでご容赦ください
 さてこのお城、外観はいわゆる「ロマンチックな古城」というにはやや武骨。調べてみるともともとは12世紀の建築で、長く廃城になっていたものを19世紀にマクシミリアン2世が改築したとのこと。重厚感がありながらも窓周りには適度な装飾があり、堅牢な壁で守られながらも舞踏会が行われたであろう宮殿風の大きな窓もあるというこの姿・・・いわば中世の砦の近世風コンバージョンといったところでしょうか。

2018年10月30日火曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その14 アウグスブルクの市庁舎

 ドイツスケッチ旅行も終盤。ローテンブルクに 3 泊した後、ニュルンベルクを経由して アウグスブルクに向かいました。この日、残念ながらニュルンベルクでは人混みとこれといって描きた いと思った建物がなかったせいで、何度か画帳を開けかけたものの結局観光だけ。
 でもスケッチ旅行に来たからには、移動だけで一日を費 やすわけには行きません。なんとか今日中に一枚をとアウグスブルクのホテルに荷物だけ預けるとすぐに市中に飛び出しました。
 目的は有名なルネサ ンス建築「アウグスブルク市庁舎」。幸いその広場は、日も暮れかけた時間のせいか、 観光客もまばら。この日初めて迷うことなくスケッチを始めることができました。画面の右側が市庁舎。外観デザインの特徴は左右対称の威厳ある構えでありながら、階高 の高い 4 階部の窓飾りを強調するルネサンスらしいデザイン。そしてこの階の内部が有 名な「黄金の間」になっています。機能と意匠がマッチした近代建築顔負けの設計です。そし て左側が「ペルラッハの塔」。たまねぎ型の屋根形状は市庁舎と共通のモチーフ。両者の色 も形も高さのバランスも市民広場のシンボルににふさわしい調和の取れたデザインです。
 残念だったのはガイドブックに「必見」とある華麗な黄金の間とペルラッハの塔から見下 ろす町の絶景を堪能する時間が取れなかったこと。でもこれは描くこと自体に時間を取られてしまうスケッチ旅行の宿命です。割り切りが肝心と言い聞かせて家路につきました。

2018年10月21日日曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その13 ローテンブルクの二重橋


ローテンブルクに到着して2日目の夜、城壁の外に古い2重橋があることを知りました。
橋のある風景にこだわりのある僕としては見過ごすことはできません。翌日ホテルの人に道順を尋ねさっそく現地を訪れました。地図を見たときは城壁を大廻りしなければならないかと思っていたのですが、実はこの橋の近くに町の出口があり、そこを抜けると案外あっさりたどり着くことができました。
きっと森を切り開いて作ったのでしょう、シンプルだけど存在感たっぷりの二重橋です。建造されたのは14世紀だけあって、重なるアーチも長年の土砂に埋もれそう。でも当時はこの橋を渡って多くの商人がヴュルツブルクからローテンブルクへ、さらにアウグスブルクへの交易に向かったとか。そんな歴史ある橋とローテンブルクの美しい町並みを重ねるとこんな素敵な構図が出来上がります。
涼風に揺れる草原でこの風景を心ゆくまでケッチできるしあわせに感謝です!


2018年9月23日日曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その12 デザインを競う建物達 マルクト広場


 ローテンブルクの中心はこのマルクト広場。この日も学生達のコンサートで賑わっていました。演奏が終って人がいなくなると気になるのが広場の建物。急こう配の屋根はこの町の特徴ですが、通常は狭い路地をはさんで建っているので、このように5軒の建築のファサードデザインが同時に視界に入ることはありません。
 よく見ると屋根の形、外壁の色、窓周りのディテールなどどれもが特徴的で、まるで個性を競いあっているかのようです。それが広場を意識した所有者の自己顕示欲のせいなのか、町の住民たちのサービス精神のなせる業なのかはわかりません。でもこんな工夫の一つ一つにこの町の人気の秘密がある気がしてなりません。


2018年9月9日日曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その11 ローテンブルクの城壁


 ローテンブルクは城塞都市。当然周囲は堅牢な壁でぐるりと守られているので、中から自分の街を見ることはできません・・・と思っていたのですがさにあらず。地図でこの町の城壁ラインを見ると一直線ではなく入隅と出隅が交互に組み合わさる形状をしているため、城壁の内側から自分の城の外壁を監視できるのです。なので銃眼の一つを覗くとこの通り、町の城壁を登ろうとする敵は・・・この銃眼から狙い撃ち!きっと敵は退散を余儀なくされるでありましょう。
 実はこの銃眼前のスペースも観光客の人気カメラスポット。彼らの視線を気にしつつも、城を守るかつての兵士の気になって描いた一枚です。


2018年8月26日日曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その10 ヴァイサー塔(白い塔)



 マルクス塔の北側二区画ほどのところにあるのががもうひとつの城塔、「ヴァイサー塔」です。この塔を正面に、両側にハーフティンバーの建物が並ぶさまはやはり中世そのもの。こんなに完璧に中世の街並みが残っているのに、実はローテンブルクは世界遺産ではありません。理由はよく知りませんが、ひょっとするとこの町の建物は必ずしも「古くない」ことにあるのかもしれません。よく見るとどの外壁も屋根もやけにきれいで、中身は現代的なホテルであったり、新たに建て替えられた建物が相当ありそうです。
 それでもこんなに観光客が訪れるのは、町の統一感、特に色と材料へのこだわりが半端でないからでしょう。赤い三角屋根、茶色の木材で区切られた白い漆喰壁、街路に敷き詰められた灰色の石・・・。改築も新築にも例外はありません。僕が何より驚いたのは衛星放送のTVアンテナ。なんと屋根につくアンテナは赤く、外壁につくアンテナは白に塗り分けられていたのです。人気の秘密は町を愛する住民の誇りとこだわりでした。

2018年8月14日火曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その9 コウノトリが見守る街  


 
 町の入口、レーダー門をくぐると、一気にタイムスリップ、目の前に中世の町並みが現れます。正面に建つのは時計台のあるとんがり屋根のマルクス塔。よく見ると外壁に銃眼らしき穴があちこちにあり、入口のアーチの向こうに町並みが続いているようです。それもそのはず、その昔この町が大きくなる前、ここがローテンブルクを守る城門だったそうです。
 塔の隣、三角屋根のてっぺんに奇妙な突起があります。おやっとよく見ると2羽の鳥が羽を休めていま。何故こんなところに?と調べてみると、これはコウノトリの巣でこの町の名物のようです。コウノトリはドイツの国鳥、そして昔から赤ん坊と幸福を運ぶ鳥といわれています。ローテンブルクはそんなほほえましい伝説を大切にする町でもあります。

2018年7月29日日曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その8 ローテンブルクの門


 ヴュルツブルクから列車で1時間、ローテンブルクに到着しました。言うまでもなくドイツを訪れる観光客の人気NO.1都市です。ここでの滞在は3日間。到着時間が遅かったことと、滞在時間にちょっと余裕があるので、この日はスケッチせず、ロケハンをしながら中世の町並みを楽しむことにしました。お勧めは石畳の街路で飲む地元名産の「フランケンワイン」。行ってみようという方、是非お試しください。
 さて翌朝。早速スケッチに出かけます。ローテンブルクは城壁で囲まれた町、最初の一枚はやはり城の正門でしょう。この「レーダー門」はほとんどの観光客が通る、いわば町のシンボル。小ぶりながら、古めかしく歴史情緒たっぷりです。まずは木陰に腰をおろし、挨拶代わりの一枚を親愛の情をこめてスケッチしました。

2018年7月16日月曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その7 ヴュルツブルク マリエンベルク要塞



 今回の計画ではマインツで3連泊したあとローテンブルクで3連泊します。重いスーツケースの移動をなるべく減らそうという配慮なのですが、マインツを後にしたこの日、ヴュルツブルクで途中下車しました。ライン川で雨に祟られ思ったようにスケッチが進まなかったこともあり、何とかここでもう一枚描いておこうと思ったからです。
 ガイドブックによればこの町の見所は3つ。まず「マリエンカペレ(聖マリア礼拝堂)」。マルクト広場に面した赤と白に塗り分けられたちょっと派手な教会です。珍しい色彩に魅かれて画帳を開きかけましたが、如何せんケルンの大聖堂を見た後ではどんな教会も色あせて見えます。悩んだ挙句・・・パス。
 二つ目が「レジデンツ」。バロック様式の宮殿でこれまた凝ったディテールデザインに惹かれましたが、横に長すぎる建物はどうにも構図を取りにくくやっぱりパス。
 そして最後がこの「マリエンベルク要塞」。外観デザインはそれほど秀逸と言うわけではないものの、アルテマイン橋越しに見る風景はのどかな中世の一シーンそのもの。迷わずペンを執り、ヴュルツブルクで一枚という目標を何とか達成できました。
 わずか3時間半の駆け足滞在・・・スケッチ旅行に「のんびり」という文字はありません。

2018年6月12日火曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その6 ケルン大聖堂


 ケルン駅から歩くことわずかに5分。聖堂の正面に立った人は皆その巨大さに度肝を抜かれることでしょう。圧倒的な存在感と高揚感!神への信仰と人間の創造力が結実して生み出された傑作に感動するに違いありません。
 えっ、じゃあなぜ正面を描いていないかって?もちろんまたしても降り出した雨が直接の原因なのですが、僕の視界をはみ出してどこまでも増殖するディテールに圧倒されてペンを持つ手が動かなかったからというのが真実です。
 それでもそのまま帰るには忍びなく、傘を手に観光客に混ぎれて歩いていると、ちょうどライン川を渡り終えたころ、急に雨雲が消え青空がのぞき始めました。振り返って見えたのがこのシーンです。濃密な装飾は融けあってひとかたまりになり美しいプロポーションの教会が光る空を背景に浮かび上がっています。古の旅人にはこれほど心強い存在はなかったでしょう。「ラインに浮かぶ旅の道しるべ」・・・ケルン大聖堂もうひとつの顔です。

2018年6月2日土曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その5 猫城

  バッハラッハの街をスケッチした後はクルーズ船でサンクトゴアールヘ。この町にある城はラインフェルス城と猫城。ケルンへの旅程を考えるとスケッチできる時間は1間ちょっと。必然的に目の前、船着場の対岸にある猫城をスケッチすることとなりました。
城もアングルも他に選択の余地が無かったとはいえ、今にも泣きだしそうな空を背景に赤い崖の上に深い緑に囲まれて建つ姿はさすが世界遺産、中世の風景そのものです。
さてここで質問です。なぜ「猫城」と呼ばれるのでしょう?名前の由来をネットで調べると3つの説があるようです。ひとつ目は城を建てた人の顔が猫に似ていた。二つ目は作った人の名が「カッツ(ドイツ語の猫という意味)なんとか」だった。最後のひとつは城の外観が猫に似ているからというもの。僕の意見はこの3つめ。塔が耳に、窓が目に見える・・・ような気がしなくもない。皆さん、いかがですか?

2018年5月26日土曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その4 シュターレック城

 今日はまず鉄道でバッハラッハまで行き、そこからサンクトゴアールまで船でライン下りを楽しみ、さらに列車に乗り換えケルンを目指します。えっ、優雅に旅する暇は無いと言ったじゃないかって?でもせっかくここまで来てまったくクルーズしないという手は無いでしょ?そう、船上のモーゼルワインが最高においしかったことをお伝えしておきます。皆さんも機会があれば是非味わってください。お勧めですよ。
 さてこの日雨がやんだ上にもうひとつ幸運が続きます。バッハラッハ鉄道駅から船着場まで歩いていると昨日大雨で絵にできなかった「シュターレック城」がいいあんばいにバッハラハの町並みの上に現れたのです。クルーズ船の出航時刻を気にしつつ手早くスケッチ。急ごう。まだ先は長い!

2018年5月9日水曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その3 マイン ツ 早朝

    翌早朝。昨日の雨を恨みつつ、祈るような気持ちで部屋のカーテンを開けると、どうやら雨はあがったよう。しめた!朝食前にマインツの町をスケッチできるとホテルを飛び出しました。そして着いたところは有名なマインツ大聖堂。さっそくスケッチブックを取り出したものの、典型的なロマネスク様式の正面顔はちょっと面白みに欠けます。ならば横顔をと広場を回り込むとあまりデザインの良くない現代建築がでしゃばってやっぱり絵になりません。 やむを得ず聖堂のスケッチはあきらめて、中世町並みが残るキルシュガルテンという街区に向かいます。歩くこと数分。マルクト広場を過ぎたあたりで後ろを振り返ると、この素敵なシーンが現れます。たった今あきらめたマインツ大聖堂と古い町並みが重なってまさに中世の朝。行きかう人を横目に、ずうずうしく道の真ん中に陣取り、でもちょっとだけ遠慮して、またまた大急ぎでスケッチを完成させました。朝食前の一枚・・・今日は幸先良し!かな?

2018年4月30日月曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その2 ラインシュタイン城

   スケッチ旅行に欠かせないもの・・・それは雨合羽。単に観光するのなら雨の日は
傘をさせばいい、でも絵を描こうと思えば画帳とペンの両手が自由にならないとだめ・・・だから雨合羽は必需品なのです。
   この日、最初のスケッチを終えた後でまたまた雨が降り出しました。次の目的地ラインシュタイン城まで約2km。タクシーなどこの田舎町で捕まるはずもなし。とにかく雨合羽を着込んで歩き始めました。30分ほどで城の麓(ふもと)にたどり着いたものの、やはり頂に屹立 する姿は雨に邪魔されて描けません。やむを得ず城への山道を上ります。山の中腹、頭上に覆いかぶさる梢の緑が切れたとき、絶妙の構図で城が現れました。雨合羽のおかげで絵を描くのに支障なし、いく分雨脚が鈍ってきたせいか茂る樹木が画帳に落ちる雫の大半を防いでくれています。チャンス!とばかりにまたまた大急ぎで描いたのがこのスケッチです。山の地肌がそのまま立ち上がったような厳めしい古城とそれを包み込む深い森。まるで童話の一シーンを見ているようでした。
 少しだけ幸せな気分に浸ったものの雨には勝てず。結局この日の成果は2枚だけ。はたして充実したスケッチ旅行になるのでしょうか・・・不安をかかえつつ次回へ。

2018年4月15日日曜日

海外スケッチ旅行にでかけよう ドイツ編 その1ライヒェンシュタイン城

  海外スケッチ旅行、ドイツ編です。前回のスペインで多くの教訓を得ました。そのひとつは欲張らずなるべく宿泊地の数を絞ること。スケッチを目的とする者にとってスーツケースを抱えたまま都市間移動と宿泊を繰り返すことは大きな時間的、精神的ロスになります。もう一つは渡航季節。飛行機代の安さにだけで決めると後悔しますよ。ヨーロッパの3月は寒くてスケッチには不向きなのです。
 そこで今回は原則同じホテルに3連泊してそこを本拠地に移動することに。ホテル到着日と出発日が雑事でつぶれても中2日はスケッチに充てられるからです。そして季節は暑くなる直前の7月初旬にしました。これで今回は安心完璧なスケッチ旅行間違いなし!?
 さて初日。フランクフルト空港に夜到着し、そのままマインツに移動。ここで3連泊します。狙いは世界遺産ライン川沿いの古城スケッチです。普通の観光客ならば当然ラインクルーズでゆったりワインをいただきながらお城を眺めるのですが、絵を描くために来た僕にはそんな優雅な時間はありません。列車でまっすぐトレヒティングスハウゼンへ向かい急ぎ足で丘の上のライヒェンシュタイン城を目指します。
 本当は下の道からまず丘の上にそびえる城の勇姿をスケッチしたかったのですが、この日はあいにくの雨。濡れずに描ける場所が見当たりません。とりあえず城内で雨濡れずに描けるいい構図を探すのですが、やはりそんな都合のいい場所はありませんあせってあちこちうろつくこと2時間。やっと空が明るくなってきた頃すばやく描いたのがこの一枚。ライン川と城塔のマッチングはさすがに世界遺産。悪天候のせいで空も川もグレーっぽく沈んで見えますが、中世の城には実はふさわしいのかもしれません。

2018年3月25日日曜日

青衣の婦人

 皆さんはフェルメールの「青衣の婦人」という作品をご存知ですかタイトルの通り衣装のブルーを基調とした画面は落ち着きがあってさすがフェルメールと思わせます。前回描いた「紫色のベレー帽」が僕にとって「すんなりと」仕上がったのもやはり落ち着いた青の色調が腑に落ちたからです。
 さてそこで今回。ご覧のように服の模様は大柄で色は派手でカラフル。青で画面を統一する手はもう使えません。でもこんな大胆な色彩も女性ならではのもの。そう考えると案外面白い絵になるかもと、気分を変えてチャレンジしてみました。
 上図が着色前の下書きですが、ちょっと一工夫してあります。いつもは人体の影までを鉛筆で描いたら、色を濁らせないように服の模様などは白地に直接着彩することにしています。でも今回の服の色をそのまま塗っていくと派手な色対比が目を引きすぎて人物に焦点が行かなくなってしまいそうです。
 そこで仕上がりが落ち着いた画面になるよう、どの色にも鉛筆の濃淡を施しておきます。ブルーの部分は赤よりも濃く、白とグレーの部分も合わせて濃さを調整します。そして服の襞の影も全体を見ながら濃さを調整します。「そんなの当たり前!」と言う方自分でチャレンジしてみてください。濃淡の諧調が何段階も増えることになるので結構大変なのですから。
 ここまで下書きを終えた後に着彩したのが最初の絵です。かなり派手な赤や青を塗っても大丈夫。下にある鉛筆の線が画面全体をうまくグレー調にまとめてくれました。

2018年3月17日土曜日

紫色のベレー帽



振り返ってみると、このブログで人物画を取り上げるときはいつも苦労話ばかり。
もたまには、すんなりと仕上がるときがあるのです。どんな時かって?
そう、例えば・・・、
このモデルさんはいつも笑顔が可愛らしい。
服装は余計な飾りが無くシンプルで趣味がいい。
うすい青緑のトーンでまとめたカーティガンとスカートの色調は清潔感があってよく似合う。
胸元の襟とベレー帽だけ紫色。にくい配色。
僕の感性にぴったり。
あとはそれに合う背景を考えるだけ。
ちょっと赤みがかったブルーの壁紙。左側からやわらかい光が差し込んでいるように。
・・・というわけで完成。
いつもこんな風に悩まずに仕上がるといいのだけど。

2018年2月24日土曜日

台湾 三峡老街

このブログで取り上げた「迪化老街」「西螺老街」など、何気なく目にしていた台湾各地にある「老街」という言葉。GOOGLEで調べてみると「清朝あるいは日本統治時代に造られた街並みのこと」と記されていました。特に商業施設の街路に面した一階部分をアーケード状に統一するデザインは当時の日本の台湾総督府が定めた様式だそうで、実は日本と関係が深い単語だったのです。
台湾各地にある老街のうちいくつかは日本の「重要伝統的建造物郡保存地区」に似た制度指定を受けて地域の振興に取り組んでいるようです。前回取り上げた「西螺街」は残念ながら建築デザインの保存にはあまり熱心ではなかったようですが、ここ「三峡老街」はほぼ完璧に日本統治時代の姿が保存されています。
煉瓦と石で統一された外壁、窓まわりのアイアンワーク、なにより連続する華麗な棟飾りは見事で、これならば「中華バロック」と呼んでもおかしくありません。もちろん老街の形式にこだわり、街路に面した1階はアーケード形式になっています。
この日はちょうどコマーシャルフィルムの撮影中。華麗なバロック(?)衣装をまとった台湾美女がこの「老街」に寄り添う姿がとても印象的でした。

2018年2月18日日曜日

台湾 西螺(シーレイ)老街

台中を訪れました。ここで見るべき建築NO.1は・・・やはり伊東豊雄さんの「台中メト
ロポリタンオペラハウス」でしょう。どこまでが床でどこからが壁なのかわからない床面積算定不能といわれるのもうなずけます。あえて写真は掲載しません。建築好きの方あの不思議な空間をぜひご自分で体験してください。オペラの演目がない日でも内部は見学できますよ。
 さてこの奇妙な建物をさっそくスケッチ・・・と言いたいところですがごめんなさい、やっぱり現代建築は描く気にならずパス・・・。という訳で今日のスケッチは、台中から南へ、電車とバスで1時間ほど行った商業の町、西螺からです。
 ご覧のように奇妙な建物が並んでいます。1階部分がアーケードになっていて台北の「迪化街(てきかがい)」とよく似たつくりをしています。大半は2階建ての建物なのですが、この一画だけ3階建てで、意匠もちょっと凝ったつくりをしています。左の建築は時計塔付き。この町のシンボルだったのでしょう。3階のバルコニーにある複数のアーチはオリジナルデザインでしょうか。他では見かけない面白い形をしています。ガイドブックによれば「日本統治時代に建てられたバロック建築が残されている」とありますが、残念ながら保存状態はきわめて悪く「どこが?」と言いたくなります。おそらく建築当時は石と煉瓦の外壁だったのでしょうが、今はその上に防水のための塗料を吹き付けているようで、バロック的な歴史的風格はまったく感じられません。ペンキ塗りの看板建築と言ったら叱られるでしょうか。それでもどうやら保存活動が行われているようですが、遅きに過ぎた感が否めません。
 でも商業の町としては今でも有名のようです。友人に頼まれた人気の店でいかにも歴史ありそうな醤油を買い求めました。店内には僕のほかにも醬油を求める観光客がちらほら。この町の復活を期待したいものです。
 

2018年1月31日水曜日

台湾 林本源園邸

   旅の達人に「台湾の魅力は?」と聞くとたいてい「安くておいしい食べ物」「あたたかい気候と南国の自然」「日本人に親切な人柄」という答えが返ってきます。でも僕のように建築をスケッチしたくて訪れるものには台湾(特に台北)はかなり近代的な町で一見すると異国情緒に欠け、ちょっと不満が残ります。
特に違和感があるのがいわゆる「古民家」らしきものがほとんど残っていないことです。理由は良くわかりませんが、どうも日本軍が第二次大戦後引き上げた直後の共産党と国民党の内乱による町の混乱が文化的な資産の喪失に繋がったような気がします。
それでもガイドブックで調べると台湾5大富豪の邸宅跡だという「林本源園邸」がどうも古民家に近いものと知って出かけました。中国の富豪の生活を垣間見ることができると期待したのですが、残念ながら大半が保存改修中。体験できるのは庭園とそれに隣接する一部の建物のみ、母屋とそれに付帯する建物は見ることさえできませんでした。確かに池を生かした江南式庭園は見応えがありますが、個人的には山や川の造形がわざとらしく感じられ、スケッチする気になれませんでした。でもせっかく訪れたのだからと、さんざん歩き回って一番「邸宅」らしさを感じたのがこのスケッチです。
石と漆喰の塀、奇妙な形ののぞき窓、レンガを積んだ門の3点セットはとても中国的です。以前にこのブログに載せた角館(かくのだて)の武家屋敷にある黒い板塀、丹精な格子窓、銅版屋根と冠木門の3点セットと比較してみればその違いは一目瞭然です。文化の違いはこんなささやかな道のたたずまいにも現れるのですね

2018年1月18日木曜日

シンガポール 天福宮

  
このブログのテーマは「人と建物」を描いて人生を考える(楽しむ)こと。その意味では各国の寺院建築にはそれぞれ独自のデザインに民族の精神性が表現されていてスケッチするのにうってつけです。今日はそんな寺院建築にまつわる雑感です。
  前回台北の龍山寺を描きました。派手な色彩と重なり合う屋根の絶妙なバランス、その上で踊る龍の彫刻達に感動したのですが、ここシンガポールでもそっくりな建物を発見しました。天福宮(シアン・ホッケン寺院)です。シンガポールの公用語は英語。
  物価も一人当たりのGDPも日本より高く、いわゆる高所得者層が多く住む国際都市です。距離的な隔たりはもちろん、お国柄もずいぶん違うのに「なぜこんなに似ているの?」と思うのは僕だけではないでしょう。
  ちょっとだけ調べました。中国の宗教は歴史の授業で習ったように、仏教、道教、儒教が基本。少なくとも今回描いた両方の寺とも「道教寺院」でした。しかし道教寺院だけがこのような色彩、屋根構成、龍の彫刻をもっぱら採用しているかというと、どうもそうでもないらしい。儒教寺院である孔子廟にも、仏教寺院でも似たようなデザインは存在するようです。
  ただ、中国本土では第二次大戦後共産党が支配権を握ったとき多くの伝統的な寺院(道教だけではありませんが)と宗教に対する国民の価値観が壊され、今ではむしろ東南アジアの中華系の人々によって道教とその寺院が伝えられたということかもしれません。
宗教にかかわる問題に素人の意見を必要以上に述べるのは控えますが、こんなことを推理したくなったのはこの手で建物をスケッチしたおかげです。皆さんも他の国の寺院に行ったときはお参りと記念写真のほかにぜひ自分でスケッチを一枚描いてください。ちょっと人生を余分に楽しめますよ。