2017年11月19日日曜日

アルハンブラの踊り子 その2

A図
B図
上の図(A図)が完成図、下の図(B図)が途中のプロセスです。違いを説明しましょう。
 透明水彩の基本テクニックはいきなり濃い色を塗らないこと。明暗のバランスを一度間違えると修正がきかないからです。B図は薄い色を一通り塗り、画面の明暗を確認し終わった段階です。特に今回は室内と窓の外の風景を合成しているので、統一感を損ねないように慎重に色を重ねる必要があります。
 B図に手を加えた項目は、まず衣装の赤色。フラメンコの華麗な踊りを連想してもらうためにもなるべく派手な赤を塗ります。具体的にはパーマネントアリザリンクリムソンに少しバーミリオンを混ぜてあります。
 次に肌の色。B図のままでは白っぽすぎるので、全般的に肌色を重ねると同時に、踊り子の表情に合わせやや赤みを強くしました。
 背景は室内の壁を砂色に近いベージュに、窓の外の風景は距離感を出すために遠くは薄く、手前を濃くします。室内が赤やベージュ系の色ばかりなので、樹木の緑色は特に重要です。少し鮮やかに、影も濃い目に処理しましょう。
 そして最後に悩むのが胸に下がったショールのレース。油絵であれば最後に面相筆で純白のラインを引いておしまいなのですが、水彩画はいったん真っ赤に塗ったドレスの上に白を塗っても白くはなりません。そこで今回は鉛筆を削るカッターナイフを使用します。刃を立ててゆっくり、慎重に画用紙を削ってゆくのです。美しく切らないほうがレースの編んだ感じが出ます。どうぞ胸の部分を拡大してみてください。僕の苦労のほどが理解していただけると思います。
 自分でもこの絵は気に入っています。次回の個展(開催日まだ未定ですが・・・)に出品する予定ですので、皆さん是非この作品の原画を見にお越しください。

2017年11月12日日曜日

アルハンブラの踊り子 その1

アーチ型の窓の向こうに見えるのはあのアルハンブラ宮殿。フラメンコの衣装を着た踊り子が静かに佇んでいます。完成後のタイトルは「アルハンブラの踊り子」。今回はその創作プロセスをお見せします。
 このモデルさんはフラメンコが踊れるそうで、ポーズも表情も、とても自然です。いつにもまして創作意欲を刺激され、まず鉛筆で一気にここまで描きあげました。
 いつもは悩む、人物の背景も今回はスペインの風景で決まり。それも有名なアルハンブラ宮殿にしたいと思うのは当然でしょう。 
 ただ、「静かに佇む」このポーズはどう見ても室内のシーン。いきなり宮殿の庭に座っているのもちょっと変です。
 絵として自然に見せるにはちょっと工夫が要ります。描きたかったアルハンブラの風景をアーチ型の窓で切り取るのです。これで室内のポーズと屋外のイメージが重なる不自然さが解消されます。あとはインテリアもアルハンブラ調に統一して・・・下書きは完成です。
 背景は方針さえ決まればすぐに出来るかのように書きましたが、実は自分のイメージに合う写真や資料はインターネットやフリー素材の写真集からはなかなか見つかりません。
 今回は昨年スペインに旅行した時の僕の個人写真やスケッチを利用しています。もちろんこの絵に利用するのことを予測していたわけではありませんが、それとなく写真の角度やディテールをそれなりに選択していたことを感じました。
 皆さんも旅行に行ったとき、「はいチーズ」の記念写真に加え、「背景素材」を意識した写真をためておくよう心がけることをお勧めします。