2015年12月27日日曜日

自宅に絵を飾ろう 風景画編 その2

 訳あって先週のブログ休んでしまいました。風景画の着彩編を期待していた方、すみませんでした。一週間遅れですがじっくりとお読みください。
 さて前回、風景画で一番重要なことは構図だと言いました。でも水彩画の水彩たる所以は水の使い方にあります。油絵の場合は、パレットで十分混色し、必要な色を作ってからキャンバスに塗るのが普通です。
 ところが水彩画の場合は紙の上で色を混色した方が面白い効果が出ます。いわさきちひろの柔らかな混色は水彩ならではのものです。
 一方油絵の場合は、失敗しても上から厚い絵の具を塗り重ねてしまえば、新たな表現を作ることが可能です。でも水彩画は基本的に透明色なので、一度塗った色は、上に他の色を重ねてもその影響がなくなることはありません。そこが水彩画の怖いところですが、テクニックを活かす楽しいところでもあります。
 以上の原則を頭に入れた上で薄く全体に色を入れたのが下の絵です。

 背景となる山は紙の上で混色させ、にじむ黄色と緑で山の微妙な肌合いを表現することにします。一方建物の立体感を出すにはやはり影が重要です。最初に軒下の影となるところにプルシャンブルーを重ねます。単調なブルーではなく水を含ませ濃い、うすいを調整しながら塗っていきます。軒の水平線、うだつの白壁のリズムが強調され画面の基本構成が確認できます。このブルーの上に木材の茶色を重ねると下のブルーの影と木材の茶色の質感が溶け合って写実的な表現が可能になります。
 悩んだのは道路。最初に危惧したとおり、単調で広すぎます。しかも現地の色は車も通るグレーのアスファルト舗装。そのままではますますつまらない画面になりそうなので、思いきって山の黄色の補色である紫をおいてみました。・・・どうやらなじむよう。これで違和感無く収まりそうです。

 大体の方針が確認できたので、色をつけていきます。すでにブルーで明暗が塗り分けられているので中心となる木材の色は一色でも表現できるはずですが、ベースの茶色を決めた後、単調さを避けるため、赤っぽいもの、黄色っぽいものと計3色の茶色を使い分けました。
 どう使い分けたか、画面を良く見て皆さんで考えてみてください。
山並みも基本のぼかしを生かしたまま、全体的に濃くしてゆきます。地面は紫をベースに明暗をつけ、単調にならぬよう筆の跡を意図的に残します。
最後に右下にサインを。なお、用紙が小さいとサインが逆に邪魔に感ずるときがあります。そういう時は無理せず裏面に日付入りでサインをしておきましょう。
 なお例によってこの絵も早速E-SHOP「美緑空間」に出品しておきました。原画をご希望の方はそちらを覗いてみてください。

2015年12月13日日曜日

自宅に絵を飾ろう 風景画編その1

 皆さん、「風景画」を描くときのポイントは何だと思います?
僕は「構図」だと思っています。どんなにデッサンがうまくとも、どんなに華麗な筆さばきを覚えようが、どれほど抜群の色彩センスを発揮しようが、構図がつまらないと飾るに値する絵にはなりません。
 巷の現代建築がなかなか絵にならないのは、単純化した線で構成された屋根や壁や窓が、画面を構図としてつまらなくするからだと思っています。


 さてそんな訳で今日は久しぶりに風景画を描こうと岐阜県美濃市にやってきました。ここはいわゆる「重要伝統的建造物郡保存地区」。「うだつの上がる町並み」で有名です。しかもこの美濃市の名産である「美濃紙」が2014年11月27日、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。さぞかし大勢の観光客でにぎわっているだろうと思いきや、3連休の休日にもかかわらず人はまばら。やはり地方の観光産業はまだまだのようです。
 美濃市駅から歩いてくると街の西南端に入り、ぐるっと反時計回りで約20分ほどで町を一周できます。到着してさっそくスケッチにかかったかというとさにあらず。
 奈良の今井町を訪ねた時は、町全体が保存、修復、管理されているためか、一歩足を踏み入れた瞬間に興奮を抑え切れなかったことを覚えていますが、ここは残念ながらいまひとつ。
 「美容室」などという大きな看板が堂々とかかっていたりすると隣家にどんな立派なうだつが上がっていてもしらけてしまいます。街のホームページを見ても狙いは「文化」よりも「売り上げ」のよう。〇〇家公開中、入場料〇〇円とかみやげ物、飲食店の写真入案内ばかりでこの街の歴史などほとんど書かれていません。僕のような歴史好きにはちょっと残念です。
 無粋な邪魔物が多いことに加え、いい構図を作りにくい理由がもうひとつあります。それは街道の幅。通常江戸時代の道幅は4間(7.2m)だと言われていますが、ここはその2倍近くありそう。
 うだつと同様火事の延焼対策なのか、交通量確保のためなのか。ただいえるのは絵を描くときに道の部分が広くなりすぎてやはり構図が取りにくい。
 そうして最終的に選んだのがこの構図。理由は、画面いっぱいに軒先が連なり、町並みとして異物が無いこと。うだつの先端に鬼瓦が載っていてリズム感があること。背景に道幅の単調さをカバーする山があること云々です。
 スケッチをするならここしかないと愛用の油性ペンを取り出しました。車も通る幹線道路なので、邪魔にならぬよう立ちんぼでスケッチすること約1時間。スケッチブックの大きさはサムホールとは言え、さすがに描き終えたときは手首も腰も疲労こんぱい。
 とりあえず今日はここまで。「構図」の大事さがわかってもらえたでしょうか。次回は着彩編です。お楽しみに。

2015年12月6日日曜日

自宅に絵を飾ろう 人物画編その2・・・着彩



 今日は着彩のテクニックをお見せしましょう。 
人物とバックの明暗を鉛筆でつけ終えたら、まず薄く全体に着彩します。
 服のブルーは一色だけです。濃淡が見えますが下の鉛筆の濃淡が見えているだけ。
 肌の色は2色のみ。明るい部分はピンクっぽい赤(パーマネントローズ)と薄い黄色(ウインザーイエロー)、影の部分は濃い赤(パーマネントアリザリンクリムソン)と来い黄色(カドミウムイエローディープ)、それに少しだけ濃いブルー(プルシャンブルー)を混ぜています。
今回は服がブルーでやや暗いため、バックはあまり暗くしないことにします。この段階では薄く、黄色と赤をまぜベージュのような色合いにしておきます。








 全体の色調を確認した後、もう一度明暗を細かく観察します。
すると濃いところはもっと濃いことに気がつきます。たとえば髪の毛や手や足の細かな影、瞳など・・・。
2Bから4Bの鉛筆を使って細かな影を水彩絵具の上からさらに描きこみます。














 濃淡のバランスがほぼ決まったら、最後にもう一度最終的な着彩を施します。服のブルーは濃いところに緑や茶色を加え、色彩の深みを出します。胸のスカーフはアクセントになるのでちょっと濃い目にしました。
 肌色をもう一度重ね塗りして華やかに。顔の影の濃いところにももう少しブルーを重ねます。目や頬、唇も微妙な色を気に入るまで加えます。
白のブラウスは白色を塗ったわけではなく、基本は紙の白と鉛筆の濃淡を生かしていますが、最後に薄いブルーや茶色でバックとの調和をはかります。
背景は人物を引き立たせるため、ベージュに少しずつブルーや茶色を足してゆきます。

全体が落ち着いたところで完成。最後に右下にサインを入れましょう。
 さて皆さんいかがでしょうか?絵に「正式」は無いとはいえ、他人の描き方は参考になるはずです。是非自分でチャレンジし、自宅に自分の絵を飾ってみて下さい。
ご要望があれば今後もこんな作画プロセスを公開したいと思います。ご意見をメッセージ欄でお寄せください。
  なおこの絵は早速E-SHOP美緑空間に出品しました。原画をご希望の方は売切れないうちにどうぞ。