2017年12月21日木曜日

台北 龍山寺


旅先での建物にこだわってきた僕としては、台北で一番有名な寺院、「龍山寺」を見逃すわけにはいきません。ありがたいことに地下鉄「龍山寺」駅から歩いてすぐ、至便なところにあります。門をくぐると本堂でお参りする人々がぎっしり。すばらしい彫刻がたっぷりと鎮座しているらしいのですが、ゆっくりスケッチをするような雰囲気でもなく、彼らと一緒にお参りする時間もないので早々に本堂から退散することに。
でも実は建物を見るには門の外からのほうがいいのです。ご覧ください、この反り返った屋根が複雑に重なり合う様を。しかも日本の寺院にはない龍が踊る棟飾りや軒先の複雑な模様の化粧瓦。そして何よりその華麗な虹を思わせるような色彩。

いつも僕が頼りにするきれいな色を出してくれる「ウインザー・ニュートン」の水彩絵具もこの華やかさを表現するには、残念ながらちょっと役不足。この次ぎ描くときは、油絵またはアクリル画で挑戦したいと思います。

2017年12月12日火曜日

台湾 迪化街


僕の大学の専攻が建築史だったこともあって、このブログで取り上げるスケッチはもっぱら日本とヨーロッパの古い建物をテーマとしています。でも最近東アジアの文化にも心惹かれるものを感じるようになりました。台湾「千と千尋の町」のスケッチ(2017/2/19)やチャイナドレスの女性(2017/2/274/16)の水彩画もその一端です。と言う訳で今回からしばらくアジアの風景にお付き合いください。
 まず今日は台湾で一番古いと言われる問屋街である「迪化街(てきかがい)」です。台北駅から地下鉄と徒歩で20分ほどの場所にあります。ご覧のようにちょっと奇妙な古めかしい西洋風の建物が並びます。古いものは清朝末期の、大部分は日清戦争後の日本統治時代の建物で現在28棟ほどの建物が歴史的建築物とし保存対象になっているようです。
 僕が訪れたのは1月中旬。暖かい台湾とは言え、かなりの寒さ。それでも町は買い物客で大賑わい。一階のアーケードから溢れた人が車道にはみ出て大混雑。とても落ち着いて絵を描けるような雰囲気ではありませんでした。それでもせっかく来たのだからと街路灯と違法駐輪(?)自転車の間に身を滑り込ませ、押し寄せる人ごみをかわしてやっとスケッチしたのがこの一枚です。最低限の人物を画面に入れましたが、本当は建物の足元は人と車でほとんど見えなかったほどでした。
でも実はこの日、描けただけでも幸いでした。ちょうど一週間後に訪れた友人は埋め尽くされた群集で、そもそも満足にこの街路に近づくことさえできなかったそうです。そう、あの観光客にとって悪名高き「 旧正月」の直前なのでした。
旅行の前には、その国の風習を改めて予習しておくことをお勧めします。

2017年11月19日日曜日

アルハンブラの踊り子 その2

A図
B図
上の図(A図)が完成図、下の図(B図)が途中のプロセスです。違いを説明しましょう。
 透明水彩の基本テクニックはいきなり濃い色を塗らないこと。明暗のバランスを一度間違えると修正がきかないからです。B図は薄い色を一通り塗り、画面の明暗を確認し終わった段階です。特に今回は室内と窓の外の風景を合成しているので、統一感を損ねないように慎重に色を重ねる必要があります。
 B図に手を加えた項目は、まず衣装の赤色。フラメンコの華麗な踊りを連想してもらうためにもなるべく派手な赤を塗ります。具体的にはパーマネントアリザリンクリムソンに少しバーミリオンを混ぜてあります。
 次に肌の色。B図のままでは白っぽすぎるので、全般的に肌色を重ねると同時に、踊り子の表情に合わせやや赤みを強くしました。
 背景は室内の壁を砂色に近いベージュに、窓の外の風景は距離感を出すために遠くは薄く、手前を濃くします。室内が赤やベージュ系の色ばかりなので、樹木の緑色は特に重要です。少し鮮やかに、影も濃い目に処理しましょう。
 そして最後に悩むのが胸に下がったショールのレース。油絵であれば最後に面相筆で純白のラインを引いておしまいなのですが、水彩画はいったん真っ赤に塗ったドレスの上に白を塗っても白くはなりません。そこで今回は鉛筆を削るカッターナイフを使用します。刃を立ててゆっくり、慎重に画用紙を削ってゆくのです。美しく切らないほうがレースの編んだ感じが出ます。どうぞ胸の部分を拡大してみてください。僕の苦労のほどが理解していただけると思います。
 自分でもこの絵は気に入っています。次回の個展(開催日まだ未定ですが・・・)に出品する予定ですので、皆さん是非この作品の原画を見にお越しください。

2017年11月12日日曜日

アルハンブラの踊り子 その1

アーチ型の窓の向こうに見えるのはあのアルハンブラ宮殿。フラメンコの衣装を着た踊り子が静かに佇んでいます。完成後のタイトルは「アルハンブラの踊り子」。今回はその創作プロセスをお見せします。
 このモデルさんはフラメンコが踊れるそうで、ポーズも表情も、とても自然です。いつにもまして創作意欲を刺激され、まず鉛筆で一気にここまで描きあげました。
 いつもは悩む、人物の背景も今回はスペインの風景で決まり。それも有名なアルハンブラ宮殿にしたいと思うのは当然でしょう。 
 ただ、「静かに佇む」このポーズはどう見ても室内のシーン。いきなり宮殿の庭に座っているのもちょっと変です。
 絵として自然に見せるにはちょっと工夫が要ります。描きたかったアルハンブラの風景をアーチ型の窓で切り取るのです。これで室内のポーズと屋外のイメージが重なる不自然さが解消されます。あとはインテリアもアルハンブラ調に統一して・・・下書きは完成です。
 背景は方針さえ決まればすぐに出来るかのように書きましたが、実は自分のイメージに合う写真や資料はインターネットやフリー素材の写真集からはなかなか見つかりません。
 今回は昨年スペインに旅行した時の僕の個人写真やスケッチを利用しています。もちろんこの絵に利用するのことを予測していたわけではありませんが、それとなく写真の角度やディテールをそれなりに選択していたことを感じました。
 皆さんも旅行に行ったとき、「はいチーズ」の記念写真に加え、「背景素材」を意識した写真をためておくよう心がけることをお勧めします。

2017年10月25日水曜日

夏を描く その4


「夏を描く」最後のモデルさんです。衣装はご覧のように、野球帽、半袖のブラウス、ショートパンツという活動的な出で立ち。まずは鉛筆でデッサン。今回はどう見ても背景は屋外の明るいシーンがふさわしい・・・なのでバックはあまり線を重ねず白いまま残しておきます。
このポーズにふさわしい背景は「夏の海」、それも「南国」でしょう。幸い、数年前にハワイに旅したときに撮影した写真があったので、水平線の高さをあわせて合成、人物と背景の色調を整えながら色を塗ります。青い空と白い雲。椰子の木と砂浜に打ち寄せる白波。夏にふさわしいパーツが揃いました。これで完成!と言いたいところですが、何か足りません。何となく存在感が希薄ですね。
その理由はたぶん明度差と彩度不足にあります。つまりアトリエで描く人物に色調を合わせてしまったので真夏らしいの強烈な色彩や光と影が感じられないのです。
そこで空の色、森の色、海の色をもっと鮮やかに、明るいところはそのまま残し、影の部分をもっと濃くなるように筆を重ねます。
さて、どうですか?・・・「夏の女性」完成です。







2017年10月19日木曜日

夏を描く その3

今回のモデルさんはノースリーブに麦藁帽子。衣装もポーズも夏らしくて申し分ありません。
例によってまずは鉛筆でデッサンします。肩や腕の曲線と色白の肌が印象的だったのでなるべく柔らかい線で、肌の部分には濃い線を重ねすぎないようにします。ここまでで約2時間。

続いて着彩です。肌色はいつもよりも薄めに、画用紙の白さを生かすように仕上げます。バックは白っぽい肌の曲線を強調するために、シンプルにグレーでまとめてみました。
実は今回はこの段階で友人に貴重なアドバイスをもらいました。
一つは腕や肩のラインを強調し過ぎたせいか、左腕が女性らしくないというもの。なるほど肩から腕にかけての筋肉が不自然…。
もう一つはバックが暗すぎると言う意見。なるほど、僕が目指す「優しい絵」に相応しくない…。持つべきものは友達です。
さてそこでまたまたバックを修正することに。ただしシンプルな表現とすること、人物を引き立てる配色とするという方針は守ることにします。前回は「避暑地の高原」というテーマでバックをまとめましたが、今回はもっと抽象的に、でも明るい夏のイメージだけは出したいと考えました。そこで画面の左上部分の鉛筆を練りゴムでごしごしと落とします。明るくなりました。そこに水をたっぷり含ませたブルーをぼかして塗ります。そのほかの部分はレモンイエローとビリジアンを濃い目に鉛筆の明暗と調和させながら置いていくようにします。細かな背景は描きません。見る人に夏の空と緑を連想してもらうことにしましょう。そうそう、指摘された腕も女性らしく見えるように修正して。
夏の女性・・・完成です。

2017年9月25日月曜日

夏を描く その2


  試しにグーグル検索で「夏」「女性」と入れると海と水着の画像がずらり。どれもちょっと開放的過ぎて今回の背景には不向きです。そこで「椅子」というキーワードを加えてみます。すると山や高原、別荘のテラスのような画像が現れます・・・だいぶイメージが湧いてきました・・・言葉にすれば「避暑地の高原」でしょうか。
 でも角度的にぴったりと背景にはまるような画像はありません。あったとしても著作権が厄介なので、今回は勝手なイメージで背景を作ることにしました。別荘の家具やテラスなどは描きません。具体的な素材があると季節よりも場所のイメージが強くなってしまうからです。色調は夏の高原らしく明るい黄緑色に、太陽の光が白く反射する部分と濃い影を落とす部分をバランスよく配置して・・・距離感を出すために奥のほうは水を吸わせた太い筆でぼかします。さわやかな草原らしく足元の草は風になびく感じで・・・・。
 という訳で、背景を全面的に修正したのが今日の作品です。本来水彩画は出来上がりのイメージを予想して描き始めるのが基本。でもこんなこともあります。皆さんもイメージ通りになるまであきらめず・・・。

2017年9月18日月曜日

夏を描く

暑かった夏ももう終わり。夏の間に描いた作品をいくつかお見せします。
今日のモデルさんの装いはノースリーブのワンピースにショール。ちょっと脚を投げ出して開放的な雰囲気。
いつものように鉛筆でデッサンしたのち、薄めの水彩で着彩。(デッサンのプロセスを復習したい人は以前のブログを参照してください。基本は同じです。)
さて改めて全体をチェック。女性はイメージ通りに出来上がりつつあるのですが、背景はいつものアトリエのまま。せっかくの夏の装いが台無しです。そこで背景を夏らしく工夫することにします。どんな背景がふさわしいと思いますか?
僕の案は来週に。みなさんも考えて見てください。

2017年9月11日月曜日

貧しき武家

 
 角館に現存する主要な武家屋敷はどういう訳かすべて城下町メインストリートの東側に並んでいます。西側は道沿いに塀だけは修景されているものの、その内側は空き地であったり、現代的な公共施設が建っていたり、見るべき保存建物は残っていません。なぜなのでしょう?
  その理由はどうやら町の区割りにあるようです。資料によれば東側は家老級の武士に、西側は足軽の住居に当てられていました。つまり西側は「貧しき武家」のゾーンだったのです。おそらく彼らには家屋や土地を維持するだけの意思も財力も無く、明治以降の時代の変遷にその運命をゆだねてしまったのでしょう。
 でも実はそのゾーンに一軒だけ残っている家がこの「松本家」です。当然立派な塀や門は無く、正面にあるべき来客用の入口もありません。屋根は石を置いて葺き材を押さえる民家方式。家屋の回りは庭園というより菜園スペース。空を覆うほどの大樹など植えられるはずも無く、屋根の上には夏の入道雲が広がっています。
  角館最後の一枚は身分差の厳格な武家社会のスケッチでもあります。

2017年8月23日水曜日

樹間の大屋根



青柳家のすぐ北側に建つのが「石黒家」。青柳家と同様に格式の高い屋敷です。
脇に覗き窓のついた立派な門はその証。さらに目を引くのは大樹の間から見える大屋根。その巨大さは、茅葺屋根ゆえの急勾配によるものと理解はしているものの、いや、ひょっとしたら他の屋敷より目立ちたくてわざと勾配をきつくして棟の高さをあげたのかも・・・などと邪推してしまうほどです。

2017年8月9日水曜日

武家の蔵



城下町の特徴であるマス形(敵の襲来に備え、城までの見通しを悪くするため、道をわざと曲げた交差点)を超えると見えてくるのが「青柳家」。
角館の武家屋敷群の中でも格式が高い家で広大な敷地内に今なお多くの建物が存在し、一部は博物館として公開されています。
母屋はやはり道からは見えず、唯一、蔵だけがその姿を現しています。元々は「文庫蔵」とよばれる重要書類を納める倉庫だったようです。蔵は家の品格を現すシンボルなのでしょう。北国の大雪を載せ、軒を支える頬杖はリズミカルで意匠的。すっきりとした持ち送りのディテール、扉周りのシンプルな装飾など全てのデザインがこの家の品格を伝えてくれます。

2017年8月2日水曜日

武家の庭


  メインストリートをさらに北に行くと岩橋家があります。こちらも道路から見えるのは門と塀だけ。資料によれば知行百石の中級武士の典型的な屋敷だそうです。
  門を通り左手にある前庭の隅に立ち母屋全体を眺めたこの絵。前庭とは言え結構な広さがあります。そして実は画面の右端にある木戸をくぐるとさらに広い本格的な奥庭が広がっています。蔀戸(しとみど)を解放して庭の眺めを積極的に取り込んだ住空間は快適に違いなく、これで「中級」?と羨んでしまうのは狭いバルコニーしか持たぬ都会のマンション住人のひがみでしょうか?

2017年7月24日月曜日

静寂 角館


小野田家はありがたいことに無料で解放されています。門をくぐると玄関があり来客者用の主入口の左に住居用の小ぶりな入口があります。座敷に上がると気持ちのよさそうな庭がひろがります。当然のように縁側に座りちょっと休憩。
視界いっぱいに広がる鮮やかな緑。7月とはいえ、まだ初旬。天気が曇りがちなこともあって、このみちのくでは蒸し暑さなど無縁。わずらわしい気配がすべて消え、五感が自然に融けこむかのような感触・・・たぶん、これこそまさに本当の「静寂」。

2017年7月15日土曜日

大樹の門 角館(かくのだて)


 このブログで何度も取り上げている「重要伝統的建造物群保存地区」の選定制度が施行されたのは昭和51年から。今から40年ほど前、僕が名古屋大学の建築学科に入学した翌年にあたります。
  実は僕が古い建物をスケッチし始めたのはこの制度と「町並み保存」という運動を知ったのがきっかけでした。特に妻籠、白川郷、三寧坂、祇園、萩、角館はこの制度による第一回の選定地区であり、建築を学び始めた大学生の僕に「人」と「町並み」という大切なキーワードを意識させてくれた町でもあります。
  その後どの町も直に目に触れ、スケッチをしたこともあったのですが一度も訪ねたことがなかった町が、今回の「角館」だったのです。
 さて建築を専攻した者としては期待を胸に出かけたものの、実はスケッチをする者としては一抹の不安を感じていました。武家屋敷って敷地の奥のほうにあって、道路からは門と塀しか見えないのでは?そうだったら絵になるかな?・・・というもの。
 ではさっそく武家町に足を踏み入れてみましょう。最初に出会うのが今日のモチーフ、小野田家の「門」。想像した通り見えるのは門と塀だけ。
 でも御覧の通り心配は無用でした。夏の深緑と木漏れ日。武家の歴史を語るモミや赤松の大木、格式ある門・・・画題として不足なし!。スケッチブック6号の画面が狭すぎるくらい、思い切りペンを走らせてみました。
題して「大樹の門」。40年目に味わう感動でした。


2017年6月18日日曜日

船大工の町 宿根木その5

町を流れる小さな水路。しかし実は「称光川」と言う、江戸時代からこの町に生活用水を提供し続けてきた大切な川でした。地図をよく見るとこの川と町の面白い関係に気付きます。この町の路地は不規則に方向が変わり、一見無秩序に走っているように見えます。たぶんまず家が建ち、余った隙間が路地になったのだろうと思っていましたが、実はそうではありません。生活用水に近づきやすいよう正確に、川と平行に配置されていたのです。町に住むということは、建築もまた町のルールに従って造られるのだという事実を教えてくれています。

2017年6月4日日曜日

船大工の町 宿根木 その4

  薄暗い路地を抜け、町の外れ、海辺の近くでやっと視界の開ける場所を見つけました。この敷地なら、たっぷりと光を取り入れた家が出来るはずと思いきや、やはり窓はほとんど無く、外壁は相変わらず分厚い板で覆われています。
  何故でしょうか?答えは地元の方が教えてくれました。江戸時代、この町は先に触れた「西回り航路」の恩恵を受け裕福な家が多かったそうです。奉行は少しでも多く税金を取ろうと窓の大きさに比例して徴収しました。だから家の広さと高さは限界まで大きくする一方で、窓は極力小さくするようになったそうです。

2017年5月22日月曜日

船大工の町 宿根木 その3


鋭角に交差する道で切り取られた変な敷地。普通なら使い物にならないこの土地も、ここの住民の「建てたい!」という切望の前には何の障害にもなりません。だから三角形の敷地に沿ってこんな家が出来てしまいました。きっと使いにくいだろうなと思いつつも、この奇妙な構図は実にアーチスト好み。僕と同じようにどこかで誰かが眼をつけたに違いない・・・そうです。僕がこのスケッチのを完成させる前に、同じ構図を背景とした吉永小百合さんのテレビCM(JR東日本放映、残念ながら関西の人は見られません)があったとのこと。見覚えありますか?

2017年5月18日木曜日

船大工の町 宿根木 その2


如何に濃密に家が建っていると言っても、町はやっぱり人が住むところ。最低限のプライバシーが必要です。

狭い道に面した窓の大きさは控えめに、かつ1階も2階も 一行く人に覗かれないよう格子で覆います。江戸時代の人々は環境に対する意識が高かったと言うのは有名な話。だから当然、家の壁板は船の廃材を利用します。茶褐色の色と厚板の重厚な質感、軽快な格子窓。統一された街並みのデザインはこうして決まったのです。

2017年4月30日日曜日

船大工の町 宿根木(しゅくねぎ)

佐渡島の宿根木を訪れました。どんな町かちょっと紹介を。

江戸時代、当時世界最大の都市であった江戸の民を飢えさせないために整備されたのが河村瑞賢が整備した西回り航路でした。しかし一方で当時はまだそんな大量の米を日本海の荒波を越えて、東北から江戸まで迅速に運べるような船はなく、新たに大型船を一から設計する必要がありました。そしてそれを実現したのがこの宿根木の船大工達だったのです。


さてさっそく町歩き。まず世捨小路と呼ばれる路地に足を踏み入れます。あまり陽の入らない薄暗い道の両側に2階建ての建物がびっしりと並びます。息がつまるような空間を奥へ奥へ。このまま空は何処かへ行ってしまうのかと心配になった頃、突き当たりの崖の上 にポッカリと青空が。空の青さが目に沁みました。

2017年4月16日日曜日

チャイナドレスの人物を描く その4



 チャイナドレス編いよいよ最終回です。前回はチャイナドレスの華やかさを出すための、全体の色付けの方針を確認しました。今日の狙いは全体に色を濃くして、絵の存在感を高めることです。
 まず背景。遠景の森は薄いブルーで軽く塗っただけでしたが、緑を濃くします。ただしヴィリジアンのような鮮やかな緑を塗ると人物よりも目立ってしまいます。今回はサップグリーンを中心に、川の反射光を受けるので少し紫色を混ぜておきます。
 次に川。反射する波がポイントなので、例によってマスキングインクで明るい部分をマスクしておきます。水面に森やお堂の暗い映り込みを描きこんだ後、インクをとって明るい部分に波を描きこみます。
 同様に手前の草もあまり克明には描きません。。細筆でぼかし気味に草の流れを描き込みます。アクセントに花がほしいのでやはりマスキングインクを使い、最後に花の色をのせます。
 そして足元の材料。実際にはアトリエの床はビニルシートでしたが、それでは雰囲気が台無しなので今回は石畳に変更します。石の材質感がでるまで何度も重ね塗りしましょう。
 さてこうやって背景を描きこんでいくと、前回一通り塗ったチャイナドレスの赤が薄く感じられてきます。そこで全体のバランスを見ながらもう一度バーミリオンを重ねます。服の明暗を損なわないように注意深く塗ってください。最後に人物の明暗をチェックしてあごの下、胸の下、服の皺、ドレスのスリット部分など一番濃い部分にもう一度影を入れて完成です。
 この絵のタイトルは中国らしく「山紫水明」としました。再来週からの僕の個展に出品します。もっと詳しく絵について語りたいという方、是非個展にご来場ください。お待ちしております。

追伸 個展情報を再掲します

加藤美稲水彩画展
日時 2017年4/27(木)~5/2(火) 11:00~19:0
場所 茶屋町画廊 chayamachi.com/gallery-guide/map.html

2017年3月23日木曜日

チャイナドレスの人物を描く その3


 さて着彩です。今回のメインテーマであるチャイナドレスの色は鮮やかな赤。大切なことはいかにその艶やかさを表現するかということです。こういう時油絵は比較的容易です。一番上の層に明るい赤を塗ればそれで事足りるのですから。(油絵は簡単と言ってるわけではありませんよ。念のため。)
 でも(透明)水彩ではそうはいきません。どんなに上から派手な色を塗っても下の色より華やかになることはないし、一度暗くした部分はその上にどんな明るい色を塗ってもそれより明るくなることはありません。特に今回は全体的に鉛筆で明暗を施しているため、下地そのものが白くはありません。
 それではこのチャイナドレスをより鮮やかに、明るく見せるためにはどうしたらいいのでしょう?答えは「比較の効果」を使うこと。たとえば同じ色でも隣合う色が地味で、暗い色であればあればその色はより鮮やかに明るく見えるし、赤と緑のように補色の関係になっていればお互いを引き立ててくれます。
 ではさっそく試してみましょう。先に書いたように、陰の部分を一度濃くしすぎるとその周辺はそれより暗くすることしか出来ず全体が明暗の階調の少ない貧相な絵になってしまいます。失敗しないこつは最初は水を多めに色は薄くざっくりと調子を確認しながら塗ることです。
 具体的に説明しましょう。まず背景を全体的にドレスよりも暗くし、色味は赤の補色であるグリーン寄りに、かつ彩度を抑えたグレーで全体を統一します。足元の床材も、植栽も、川も森も生の絵の具は使いません。どこも赤、緑、青の絵の具を適度に混ぜて彩度と明度を落としています(色が濁るので黒と白の絵の具は使いません)。更に背景全体の色相は赤と補色の関係にあるグリーンを強くします。そして生のバーミリオンを使うのはチャイナドレスの一点だけに絞ります。こうすることによって透明水彩の薄い赤でも艶やかな赤に見えるのです。いかがですか?
今回で全体の色調は確認できました。ただちょっとまだ全体的に色味が薄く、存在感が希薄です。次回はフィニッシュまでのプロセスをお見せします。お楽しみに。


2017年3月12日日曜日

チャイナドレスの人物を描く その2


 前回アトリエで作成した鉛筆のデッサンを見ていただきました。いつもならすぐに水彩で着色をするのですが、今回はせっかくのチャイナドレス。この際背景も思いっきりチャイナらしく・・・とインターネットで(著作権の問題にならぬ範囲で)題材を探し、アレンジして、画面を再構成したのが今日の作品です。
 注意しなくてはいけないのは、目線レベルを合わせること。つまり僕が絵を描いている時の水平線と背景の画像の水平線がほぼ同じ位置に来るようにすることです。ただし実際に探してみると良くわかるのですが、今日の絵のように水平線が画面の上方ぎりぎりに設定してある構図の背景画像は少ないと思います。そのあたりは組み合わせのテクニックが必要です。皆さんも研究してみてください。
 ついでに人物も前回と比べるとちょっと修正しているのがわかりますか。ひとつは足先が画面からはみ出していたので、ちょっとつま先を曲げてもらい、画面に収まるようにしました。もうひとつはきりりとした顔の表情。前回はわざとぼかし気味に描いていたのですが、バックをここまで描きこむと、表情もはっきりと描かないとバランスが取れなくなったからです。
 これでやっと下書き完成です。次回はいよいよ着色です。

2017年2月27日月曜日

チャイナドレスの人物を描く


 このブログに登場するモデルさんはいずれもモデルクラブに所属するプロの人達です。でも実はモデル代は衣装によって違うのです。お任せの普段着は安く、民族衣装は高いという具合に。(当然ヌードは一番高いのですが)。そして数ある民族衣装の中でも人気が高いのがチャイナドレスだとか。当然プロの画家達も好んで描いています。有名な絵はやはり安井曾太郎の「金蓉」でしょうか。
  というわけで今回はチャイナドレスの人物に挑戦です。この日、2時間の枠(モデルさんの休憩時間を除くと実質は80分)の中で、如何にチャイナドレスならではの女性らしい体の線を忠実に捉えるかが勝負です。手にするのは鉛筆と練りゴムだけ。
  まずHBの鉛筆で大まかにデッサンをします。線ではなく面を表現します。いくつもの曲面を薄い鉛筆の線で塗りつぶす感じで描いて行きます。濃い部分はより濃い鉛筆を使うか線の本数を増やします。そして明るいところを練りゴムで削ぎ落とす。基本的には80分間この作業の繰り返し。さらに全体から細部へ、細かく細かく・・・。最後に一番暗い部分に4Bの鉛筆で影を入れます。そして完成!。終了のタイマーが鳴り、あっという間に80分が過ぎました。集中し過ぎたせいか頭はぼーっとし、眼はかすんで・・・でも出来映えはまあまあ。
 次はチャイナドレスの人物、その魅力を引き出す工夫を・・・と言いたいところですが、とても 疲れたので本日はここまで。この続きはまた次回に。

2017年2月19日日曜日

台湾 千と千尋のまち


 2016年1月、初めて台湾を訪れました。一番行きたかったのはここ、九份(キュウフン)。ガイドブックによればアニメ「千と千尋」のモデルになった町だとか。狭い路地に店舗がぎっしりと並び、そこに観光客の波が押し寄せる・・・なんて濃密な空間なのでしょう。
 あの路地の真ん中でスケッチすることなど思いもよらず、今日の成果はなしと半分あきらめかけたところに、一坪ほどの空き地があって、そこからひしめき合った街の様子を垣間見ることができました。あまり長居するのも気が引けて、ささっとスケッチしたのがこれ。
 それでもご覧のように東洋も西洋もごちゃ混ぜになった建築のかたまり・・・とても苦労しました。
まだここを訪れていない人へ、中国人の買い物にかける情熱を感じるには最高の街です。是非お出かけを!

2017年1月31日火曜日

人物画を優しく描こう その5


 「ぼかし気味」の優しい人物画・・・着色編です。僕の場合、鉛筆で下書きに濃淡がついていても、かまわず上から絵の具で濃淡をもう一度つけていきます。それは鉛筆の白黒の陰に色の深みをつけることが目的なのですが、その段階で場合によっては筆のラインが強く出すぎることが往々にしてあります。
 そこで今回は明暗は鉛筆の線生かしほとんど素材の色だけを重ねるようにしました。筆跡はほとんど残しません。うすくぼかすように色を置いてゆきます。ですから近くで見ると鉛筆の線がけっこうラフに残っているのですが、あくまで全体の調子を大事にし、細かな線は気にしないことにします。
 背景も同様にしてうすい色を、水をたっぷりと含ませた筆で重ねます。背景色はオーソドックスに茶色にしましたが、ぼかし気味の絵ではちょっと単調になりすぎたので、画面の下半分にグリーンを加えました。画面に奥行きが出て人物が浮かび上がる効果があったようです。
 これで完成。今回の「優しい人物画」いかがでしたか?皆さんのご意見をお待ちしています。


2017年1月29日日曜日

人物画を優しく描こう その4


 優しい人物画を描こう・・・今回のテーマは「ぼかし気味に」です。前回のように人物の表情にこだわろうと思うと、どうしても顔を克明にはっきりと描きたくなります。それは一方で人物に「見られているような気がして飾る気がしない」というようなマイナスの感想を生むことにもなります。そこで今回はあえて表情をぼかし、画面全体の優しい雰囲気を表現することにチャレンジしてみます。
 幸い今日のモデルさんは大柄で目鼻立ちの整った人。細かな表情にこだわらなくてもいい雰囲気が出せそうです。
 いつものように、まず鉛筆でデッサンしますが、いつもと違うのは、
・顔を描き過ぎないこと。極端に言えば眼、鼻、口の位置がわかる程度で。
・「線の表現」をせず、4HからHBまでの薄目の鉛筆の影の濃淡で全体を表現すること。
 そんな感じで一通り描き、全体を眺めると、さすがにぼんやりしすぎてちょっと絵としては不満が残ります。そこで髪の毛の濃い部分、首や脇の一番濃い影の部分、手足の明るい部分の背景となるところだけアクセントとして4Bを使います。これで下描き(上図)は完成です。
 色塗りのポイントは次回に。